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地名は災害の歴史を伝えている。「この地名が危ない」を読んで地名の持つメッセージを知り、地震や津波災害に備えよう。

「象潟」。秋田県にある地名です。

こんな場所です。
象潟
(写真:Wikipedia)

この地は松尾芭蕉の「奥の細道」最北の地。
芭蕉は1689年に訪れました。
その時、芭蕉が見た風景は上の写真とは異なります。

芭蕉が訪れた116年後の1804年、直下型地震によりこの地域の風景が一変します。
かつて「九十九島、八十八潟」と呼ばれた絶景は隆起して陸となり海は遠のき、かつての海は干潟となり、島は点在する小山となって広がる一帯となります。
小山の一つに登って深呼吸すると、舟が行き交う、芭蕉の詩情が蘇るようです。

1804年の地震から時を経て1983年、この地を再び地震が襲います。
日本海中部地震です。
秋田・青森両県で100名以上の津波被害者を出す災害となります。

この地名が危ない」という本があります。
この地名が危ない

著者は楠原祐介氏、「災害地名学」を提唱します。
地理学を学び辞書の編纂などをされた方です。
各地にある「字(あざ)」、「子字(こあざ)」の地名などの古い地籍名に、災害などの歴史が刻み込まれていることを明らかにしています。

これはデータ工学・情報工学の観点からもとてもユニークです。
通信や伝達手段、記録手段が限られる中で、情報をシンプルかつ最小限の変化にとどめながら確実に伝えようとする意図が感じられます。
「言霊(ことだま)」と言いますが、地名もまさに言霊として伝承されてきたのでしょう。

楠原氏は、1983年の日本海中部地震の予測ができなかったことを悔やみます。
気象や地震予測関係者には「津波は太平洋で起こるもの」や「津波は入り江奥深くに入ってゆく大波である」という先入観が邪魔をしたのだと。
そして歴史を経る中で地名は災害を記憶してゆくものの、我々がその発するメッセージをとらえきれていなかったことを悔やみます。

筆者は、芭蕉が見た象潟の「九十九島」は荒波によって形成されていったとされることに疑問を持ち、実は地質時代からの度重なる津波が原因ではないか、津波が多い土地だったのではないか、と推察を立て、それを地名から探ってゆきます。
象潟市には現在「塩越」という地名があるがこれは「潮越」の意で、『細長い海岸線を津波が何度も何度も越していった地』(79ページ)だとします。
もともとこの地域には古代地名として「雄波(おなみ)」という地名があり、「男波」とも同意であるといわれます。
この男波こそは津波であると。
古く「男」「女」の意味は、それぞれ「凸」、「凹」であることが結びつきます。

2011年の東日本大震災では東北や北関東沿岸各地を地震や津波を襲いました。
茨城県いわき市小名浜にも津波が襲いました。
筆者によると、「小名浜」の「おな」は、実は「男波」の「オナ」が変形したものであると。
女川原発の「女川」の「オナ」は「男波」であると。

このようにして、楠原氏は地名の語るメッセージを紐解いていきます。

なぜ福島第一原発の防波堤は低くなったのか?なぜ福島に津波が来ると想定していなかったのか?

福島第一原発の破綻は、津波で防波堤が決壊したことが決定的な原因となりました。
防波堤が低過ぎたという指摘があったことは記憶に新しいと思います。

福島第一原発と女川原発の仕様を比較してみると、想定津波高は福島が5.7メートルに対し、女川が9.1メートル。

なぜこのような見積もりになったのか。

それは津波が「入り江の奥に来る大波」と誤解されていたからであり、そのため、福島原発周辺の海岸線は津波想定外とされたというのが著者の主張です。
「津波」という言葉のメッセージは、「入り江の奥に来る大波」ではなく「波長が長く重なる大波」。
「津」とは「繋がる、連なる」を語源とするからである、と言います。

「誤解」とは「人間が持つ固定化したイメージ」であり、いちばん恐ろしいことのひとつだと楠原氏はいいます。

1896年に死者21,959人を出した「三陸地震津波」
甚大な災害辛苦が人々に記憶されます。

その記憶により
「三陸」=「リアス式海岸」、
「リアス式海岸=入り江が深い」、
「入り江の奥に来る大波」=「津波」

とイメージが形成されていったのだろう、と。

福島第一原発がある福島県の双葉町や大熊町は長く広がる海岸線が特徴で入り江は少なく、津波は来ないとされてしまった。
そのことが一つの要因だと筆者は指摘します。

2004年のインドネシア・スマトラ沖大地震でも津波が襲い、28万人以上の死者を出しています。
津波が襲ったインドネシアのバンダ・アチェも、スリランカ東海岸も、入り江にはなっていません。

また双葉町、大熊町の福島第一原発がある「権現堂地区」は、かつて「高野宿」とも呼ばれる地域。
この高野宿では大火が相次ぎ、そのため「浪江宿」という水に縁のある地名をあてたとする説があるが、筆者は浪江町の「棚塩(棚上になった潮入り湖)」や、「請戸川(湖水を自然堤防が受け止める川)」などの地名を引き合いに出し、「浪江」とは津波の痕跡を伝える地名だとします。

このようにして、津波が襲った記録を地名にのせて伝えようとかつての日本人はしていたのだと筆者は言います。
「律令国家が成立してから急に災害が増えたわけではなく、中央政権が積極的に各地の災害を掌握、記録し、それに対処しようとしていたのだと見るべきだ」と。(96ページ)
安易な市町村合併や改名に警鐘を鳴らしています。

地名が発する災害の記憶・警鐘メッセージの具体例

福島県双葉郡楢葉町大字波倉にある福島第二原発。
「波倉」は「波が抉った土地」そのものであり、いつ第一原発以上の災害が起きてもおかしくないと筆者はいう。

地名の「倉」「蔵」は「抉る(えぐる)」を表していると。

神奈川県鎌倉市。
13世紀の100年間に大きな地震が7回あった記録
を「理科年表」から取り上げている。
「鎌倉」は「釜状の穴倉」が津波によって何度も抉られた土地。
関東大震災は相模トラフが引き起こした地震で、被害も湘南地方は甚大だった。

●2011年の東日本大震災は仙台市・名取市の名取川流域を津波が襲う。
名取市に上余田・下余田という「余田(ヨデン)」地域がある。
ヨデンはかつて「ヨタ」であり、このヨタは岩手県宮古市の方言では津波そのものを指す言葉であった。
ヨタに余田という字を当て、それがやがてヨデンと読まれていく。

●長崎の雲仙普賢岳は、「吹かぬよう」という思いが込められた山。それだけ噴火に悩まされていた。

●2009年に大規模地滑り災害が起きた山形県鶴岡市の旧朝日村大網地区にある「七五三掛(しめかけ)」という集落
シメは「注連縄(しめなわ)」のシメであり、結界を張るという意味。カケは「崖」であり、欠けた地形のこと。

●シメは「標」と記されることが多い。シメは近づかないようにとされた区域のこと。
福島県の双葉町、大熊町一帯の古代地名は「標葉郷」「陸奥国標葉郡」と言った。

新潟中越地震の震源となった山古志村。
山古志村を流れる「芋川」のイモは「ウモ」が転じたもので「埋もれたもの」の意。
この地震による土砂災害で芋川は多くの場所がせき止められ、土砂堰止湖(天然ダム)となっていた。

●1980年、富士山頂近くの久須志ヶ岳(クスシ)で落石事故があり、死者12名を出す。
久須志とは「崩し」のこと。
久須志には「薬師如来(やくしにょらい)」が祀られているが「薬師(くすし)」にあやかり転じたもの。
各地の薬師如来や「薬師~~」という地名には「崩し」に関する由来がある可能性が高い。

六甲山は、はげ山を表す「ムケ」が「ムコ」となり、「武庫」の字を当てた後に室町ごろから「六甲」を当てた。
六甲山は毎年のように崖崩れ、土砂災害が起きる「剥け(ムケ)」の山である。

●神戸市のという地名は「地面が撫でられたようになること、地滑り、崖崩れ」を意味する。

●千葉県の房総地域を表す「安房」
「アワ」は「あばかれる」のことであり、「地中にあったものが地表に暴かれる」、つまり「土地が隆起する地」のこと。

京都市の東山区と左京区にまたがる「粟田口(あわたぐち)」地区
この地区周辺には、花折断層、清水山西断層、鹿ケ谷断層、花山断層などいくつもの断層が走る。
アワは土地の隆起を表す。

●関東大震災は、現在の神奈川県三浦市に位置する相模トラフで発生した。
相模トラフの東方には淘綾(ゆるぎ)丘陵、また余綾(よろぎ)丘陵と呼ばれる一帯がある。
つまり、揺らぎ、よろめく土地である。

過去の災害の検証だけではなく、将来への警告も発しています。

「秋葉原ー江戸前断層」の存在の可能性。
「秋葉原」は「秋葉神社」からきており、秋葉神社は主に鎮火などの災害防止を祀るために古代からある神社。
かつて災害が頻発していた地域であることを表しているのではないか?

東京スカイツリーのある「押上」
押上は、土地が「押しあがる」に他ならないのでは?
東京都都市整備局の「地震に関する地域危険度測定調査(第7回)(平成25年9月公表)」
によると、押上地区の地盤は「沖積低地4」でありとても軟弱な地盤。流動化が起こりやすい地盤。
(参照:現代ビジネス「地震に関する地域危険度測定調査」

●大阪地域を表す「難波」
難波はかつて「浪速」であったが、まさしく「波が速い」つまり「津波」がたびたび襲い掛かる地域であった。

皆さんの住まいや職場の周辺地域はどうでしょうか?

自分の住む地域や土地の名前の持つメッセージを知り、災害に備えよう。

住宅街、東京のビル群

東京に直下型地震が必ず来ることは言われ続けております。
この本でもそのことが喚起されています。
地震に備えて防災グッズや食料を買いそろえることも大事です。

住まいや職場については、国土地理院の「都市圏活断層図」のチェックがお勧めです。
自分の住まいの直下や近くに断層があれば、直下型地震の危険は俄然高まります。

例えば、東京の「立川断層帯」
地理院地図_立川活断層帯
激しい断層帯が走ってます。

続いて、「象潟」のある地域。荘内北部です。
地理院地図_断層‗荘内北部_R
いやはや断層だらけ。

同じ地域の地図ですが、こちらは「政府地震調査研究推進本部http://www.jishin.go.jp/」のウェブサイトから。
こちらのほうがわかりやすいかな
庄内平野東縁断層帯

山形県飽海郡遊佐町の辺り、山と平野の境目辺りに無数の亀裂が。。。
西側には庄内平野が広がり、これらの断層は「庄内平野東縁断層帯」です。
遊佐町の「ゆざ」は、「揺さぶられている」のゆさ、であろう、と楠原氏は言います。

断層帯地図のついでの見方です。
等高線的に「赤っぽいところ」が丘などの高地、と「黒っぽいところ」が「谷や沢」などの低地として塗り分けられています。
いわゆる「良い場所・安全な場所」とされているところは「赤」が多く、代々木公園など大きな公園や大学、お屋敷街などばかりです。
黒い場所は川や大通り、線路などが多いでしょうか。
なるほどねーとよくわかったりします。

知識と知恵、物資や気持を整え、しっかり災害に備えていきましょう。

非常用持ち出し袋はありますよね?

5年保存水とか。

こちらもお忘れなく。
「東京防災」。

過去の津波の歴史を知ろう

「地震の年表 (日本)Wikipedia」
「歴史的な津波の一覧(Wikipedia)」
「日本付近に発生した津波の規模(1498年―2006年)」
など。

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